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高次脳機能障害Kさんの、「泣き笑い」そして「春」
2021.04.07
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久留米センター
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#就職活動
#久留米市

こんにちは久留米センターです。

季節はもう春ですね♪皆さんは何か新しい事を始めたりされていますか?

 

さて今回は、この春に新しい一歩を踏み出した、高次脳機能障害のKさんについての話を聞いていただけたらと思います。

 

【もくじ】

1.Kさんとの出会い▼

2.高次脳機能障害の難しさ▼

3.訓練・実習で適性を実感しよう!▼

4.過去との決別・未来に向かって▼

 

 

1. Kさんとの出会い

主治医である高次脳機能障害の専門の先生と、高次脳機能障害コーディネーターの方から「支援を受けてからの就職が良いだろう」と助言をもらい、Kさんは久留米センターに電話をかけて来られました。

来所されて行なった面談では、緊張しつつも上手に今までの事を説明される様子に、障がいの影響はほとんど感じられませんでした。

受傷後の生活がとても辛く厳しいものだったことをサラッと言う彼の様子に、胸が締め付けられたことが昨日のことのように思い出されます。

見た目とは裏腹に、”ひどい傷を負ってここにたどり着いた”、という印象でした。

 

 

2. 高次脳機能障害の難しさ

Kさんは交通事故による受傷で高次脳機能障害の診断を受けました。彼はその事故の日を「命日」と言います。

私は以前、脳出血による高次脳機能障害のYさんを担当したことがあるのですが、そのお母様は「その日を堺に親子の人生が変わった」とおっしゃっていました。

高次脳機能障害は事故や病気(脳卒中など)が原因で脳に著しく損傷を受け、日常生活に支障をきたす障害です。

主な症状は①注意障がい②記憶障害③遂行機能障害などが挙げられますが、これ以外にも多くの症状が見られます。

そして症状の出方が十人十色どころか百人百色であることが特徴的で、表面的には受傷後と何も変化が無いようにみられることから「目に見えない障害」とも言われます。

KさんもYさんも、外見からもちょっとしたやり取りでも、障害を持っているようには思えません。

実際Kさんは事故後、普通に職場復帰を果たし、それまで通りに派遣の仕事に赴いていましたが時間が経つにつれ、「数の数え間違い」、「覚えることができない」、「情報が一部抜け落ちる」など自覚がない症状が顕著になり、次第に上司から叱責を受けたり同僚から文句を言われたりするようになりました。

彼はそれでもまだ障害とは気づいてなかった為、叱責されても怒鳴りつけられても、「なぜ自分はできないんだろう。迷惑かけて申し訳ない。頑張らなければ!」と自分を責めながら必死に仕事をしていたそうです。

そんな彼からは今でも「人に、会社に迷惑をかけられない」と言う言葉がよく出てきます。

事故から2年後、周囲の勧めもあり脳の再検査を受け、そこでKさんはようやく「高次脳機能障害」と診断されました。

派遣先に次々と切られ、全国を転々とする日々。継続雇用が難しいため日雇いの仕事もしました。しかしどこに行っても叱責、苦情が続くのです。数時間でクビを言い渡されることもあったそうです。

真面目で真っすぐな彼の心情を考えると『よく今日まで耐え抜いてくれた!』と複雑な心境になります。私は今でもこの話を思い出す度に涙が出ます…。

自分でも気づきにくい、そして周囲にも理解が難しいのが、この「高次脳機能障害」なのです。

 

 

3. 訓練・実習で適性を実感しよう!

さて、そんなKさん。2019年6月からスプライフを正式利用となりました。

まず取り掛かったのは、やはり「何ができて、何が難しいのか」、「どのような工夫があればできるのか」を把握していくことでした。

・記憶障害があるのでメモを取るが、どこに書いたか分からなくなる

・数を正確に数えることが難しい

・段取りを考えて動くことができない

・相手の言っている意味が分からなくなる、などなど。。。

やはり多くの「苦手」が浮き彫りとなりました。これはYさんとは全く違う症状でした。そしてこれが「Kさんの特性」という事になります。

自分のできないことを改めて目の当たりにしたKさんは落ち込みつつも、「どの方法ならできるのか」、「自分が工夫できることは何か」などを一緒に考え、これを訓練の中で実践し、本当に少しずつではありますが気を付けるべき点に自分で気づき、注意や対策が打てるようになりました。

卒業時のアンケートには「何もわからない自分に、何ができるかという事を一緒に探してくれたのはありがたかったです」、「新たな自分を見つけることができた」と書いてありました。もし、少しでも役に立ったのなら幸いです。

結果的に3か所の職場体験実習に行きましたが、どちらからも「採用の可能性 ⇒ 有り」の高評価をいただきました。徐々にできることが増え、他者からの評価も高くいただいたことで、自信にも繋がっていったように感じます。

嬉しそうに「早く次の実習が決まらないかな」と頻繁におっしゃっていました(笑)

 

 

4.過去との決別・未来に向かって

「いずれ一人暮らしをして自立したい」という夢も持っていたKさんは、フルタイムで働ける場所をずっと探していました。そしてようやく、今年3月、とても良い企業さんに巡り合いました。

●複雑ではない作業(計画や段取りを立てなくて良い)

●質問しやすい環境(安心して確認ができる)

●危険性がなく慌ただしくない雰囲気(多くの事に注意をしたり気を遣いすぎなくて良い)

彼の特性にはピッタリな環境です!企業様にも彼の特性に関してお伝えし、それに対する配慮をお願いしました。そして実習・面接を経て、無事『採用』となりました。

現在、業務に慣れるまでという事で片道1時間半かけて通勤していますが、そろそろ一人暮らし開始予定です。また一つ、夢が叶います。

 

通所期間は文字通り、ともに「泣き笑い」をした1年9か月間でした。

私は高次脳機能障害の難しさを改めて感じ、また同時に「もう絶対に今までと同じような辛い思いをして欲しくない。事故の日を”命日”と思わずに生きていって欲しい。私はそのための支援をするんだ。」と強く心に誓う機会となりました。そんな気付きをくれたKさんに感謝しています。

 

卒業する時に彼は私に言いました。

「自分も悪かったんです、障がいのことに気づいてなかったから。当時の周りの人も自分の障害の事を分かっていたらあんなこと言ってなかったと思うんですよ。」と。常に周囲を思いやる、彼らしい言葉でした。

 

センターを後にする時に深々とお辞儀をして「今まで本当にありがとうございました。頑張ります。」と言った彼の姿を、私は一生忘れることはないでしょう。そしてこれからも、応援の気持ちを込めて定着支援をしっかりやっていきたいと思います。

 

春の訪れとともに、今まで頑張ったKさんにもようやく明るく穏やかな春が来ました。自分の力を発揮して、今度は生き生きと仕事を頑張ってもらいたいと願っています。今度定着支援でお会いするのが楽しみです(*^▽^*)

さあ、あなたのペースで
はじめましょう。

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